聖書がボードゲームに!? ~製作元のキリスト新聞社に迫る~

 

聖書の登場人物たちをカードに戦う野球ゲームがある。その名も『バイブルリーグ』。製作元は戦後間もない1946年から発行を続ける由緒ある新聞社、キリスト新聞だ。これまでの伝統的なキリスト教教育は若者が興味を持ちづらい状態にあった。本学のキリスト教人間学でも講義の時間を睡眠時間に充てている学生が多く、例外ではないだろう。キリスト新聞社代表取締役社長で編集長の松谷信司さんはそんな現状を打破しようと多くの試みを行ってきた。ゲーム性の高さと情報の正確さを兼ね備えた本格的なボードゲームやスマホゲームの開発、サブカルチャーをふんだんに取り入れた新聞製作などである。「聖」なる夜に、楽しみながらキリスト教のディープな知識に触れてみるのはどうか。

(記者:髙瀬詩穂美 デスク:岩﨑結衣 撮影:小林郁人)

 

<中見出し一覧>
・ゲームについて

・ラノベにプリキュア? キリスト新聞とは

・「教える側が工夫しないのは職務怠慢ですよ」 大学も

・おまけ 「スマホゲーム」も含めた全7種類のゲームリスト

 

 

■ゲームについて

 

『バイブルリーグ』は1打席ごとにナンバーカードを出し合う野球ボードゲームだ。点数に関係なく勝敗が決まる「最後の審判」などのルールも交えながら、聖書の登場人物に楽しく触れることができる。「アダムとイブの露出度が高すぎるとのクレームも入りました。むしろ服を着せたら聖書に忠実じゃなくなっちゃうんですけどね」。松谷さんは苦笑しながら、新しい試みには多方面からの反発も多いと話す。問題のカードには、右手に林檎を持ち左手の巨大なグローブで身体の一部を隠している全裸のイブ(エバ)が描かれている。カードの効果は「相手打者が【男】なら、投力+1」、該当する聖書の箇所は創世記3章6節の「女は実をとって食べ、一緒にいた男にも渡したので、彼も食べた」という部分だ。この1節は信者ならば知らない者はいないような定番の聖書箇所で、キリスト教の信者数を考えれば世界的な教養ともいえる。カードの効果やキャラクターの立ち絵は、すべて聖書をもとに作られている。

 

野球ボードゲーム『バイブルリーグ』

 

キリスト教に関する歴史の知識を深められるゲームもある。ボードゲーム『ルターの宗教大改革』では、プレイヤーはいかに自身の「正統度」や「改革度」を高めて宗教改革を成功させられるかを競い合う。例えば「公開討論」を怠っていると、「ドイツ農民戦争」の局面で最も「正統度」の低いプレイヤーが「異端」としてダメージを受ける。また「宗教改革者」側だけでなく、免罪符を発行して宗教改革のきっかけとなったローマ教皇「ルイ10世」としてもプレイ可能だ。宗教改革の知識がまったくなくても、自分がまるで歴史上の重要人物だったかのように楽しみながら学べる本格ゲームである。

 


『ルターの宗教大改革』

 

キリスト新聞社は、1人で遊べるスマホ用アプリゲームも含めて現在までに計7種類製作している。ゲームのリストは記事末尾に掲載した。

 

 

■ラノベにプリキュア? キリスト新聞って何者

 

キリスト新聞社はゲームの制作だけでなく、聖書ラノベ新人賞の開催や新聞紙面をタブロイド版横書きカラー印刷にするなど大胆な改革を進めている。タブロイド版になってからの紙面では顔となる1面に大きく初代プリキュアがカラーで掲載されるなどインパクトも強い。これは2018年10月21日発行の、プリキュアとコラボしてフィリピンのサマール地区に体験型の図書室を設置しようというクラウドファンディング企画を取り上げた号だ。

キリスト教系の発行物として異色なのはサブカルチャーとの近さだけではない。歴代ローマ教皇およびローマ教皇庁は、2000年近い歴史の中で同性愛を聖書で禁じられた行為として認めてこなかった。昨年5月にフランシスコ現教皇が同性愛者の男性に対して、「創造主があなたをそのように作った」と肯定する言葉を個人的にかけてニュースになったが、いまだに教皇庁の公式見解としては是認されていない。だがそんなキリスト教の世界でも聖職者による小児者への性的虐待やセクシュアルハラスメント、性的マイノリティーの神父や牧師や信者がどうしていくかといったセンシティブなことが問題になっている。そこで松谷さんは未成年者虐待に対する教皇庁の対応や、同性愛をカミングアウトした牧師のエッセイをレビューする記事なども積極的に掲載している。「なぜそのような問題を取り上げるのか、宣教に支障が出るなどの理由で教会から苦情も来るが、まずその意識を変えなければ駄目」と松谷さん。キリスト新聞はともすれば内部で隠蔽されがちな問題から目を逸らさず、考えていこうとする役割も担おうとしている。

 

そもそもキリスト新聞は教会やキリスト教系学校など業界向けのメディアだった。とはいえ創刊当時から「教派に捉われずキリスト自身を伝えようという姿勢があった」と松谷さんは言う。現在でも特定の教派に偏らない超教派的なスタンスは変わらないが、より大きな境界線を越えて他宗教である仏教やイスラム教の関係者も連載執筆陣となっていたり、カルト的な新興宗教に関する問題を取り上げたりもしている。「紙面をリニューアルした後、内部向けからより広く一般的な読者層にも読んでもらえるよう微妙に方針転換をした」と松谷さんは話した。

 
 

■「教える側が工夫しないのは職務怠慢ですよ」大学も

 

しかし、歴史ある新聞社でまだ若く革新的な松谷さんが代表取締役となるまでに一体何があったのか。

現在キリスト新聞の制作陣はたった数人だ。大学卒業後テレビ朝日系制作会社、小学校教員と2度転職してキリスト新聞に入社したという松谷さん。「さすがに3度目の転職はないと思って辞めようと考えたことはありません。代表取締役も、先達が辞めていく中で他にやる人がいないから仕方なく、という面が強いです」。予想外の回答だ。就任当初から強い改革の意思があったわけではなかった。だが「やるからには」とキリスト新聞および日本におけるキリスト教の現状を真剣に考えるようになった。

松谷さんは宣教の現状に危機感を抱いている。「キリスト教系の学校は日本全国に何百とある。例えばプロテスタントの小学校から大学までを合わせた年間卒業者数は約8万人。一方、日本のキリスト教信者数は長く人口全体の1%未満のまま。これだけ多くの人がキリスト教に触れていてなぜ教会に足が向かないのか。日本に宗教は根付かないと言われる風土も関係しているかもしれないが、これは伝え方に問題があるだろうと」。この問題意識から、自身も好きな漫画やゲーム、ライトノベルなどのサブカルチャーを取り入れた活動を始めた。本学史学科の学生・SONOさんがキリスト新聞紙上で3年間にわたって連載した漫画『教派擬人化マンガ ピューリたん』、聖書ラノベ新人賞などはその一例だ。

大学などが行っているキリスト教教育についてどう考えるか。松谷さんは「伝道と教育は違うかもしれないが、伝える側の工夫は不可欠。牧師や神父が学校の礼拝でも教会での説教とまったく同じように話したり、聖書を読み聞かせているだけでは誰も聞かなくて当然です。教会の説教者ならそれで通用するかもしれませんが、学校の教員だったら職務怠慢になりますよ」と意見した。

「幼児向けのぬり絵とか、反対に小難しい聖書入門とかはもうあふれるほどある。でも、ちょうど学生が面白いと思えるようなものがなかった」。改革を始めてまだ数年、手応えを聞くと「採算面ではわからないが、認知度は間違いなく上がった」とにやりと笑った。

 


タブロイド判『Kirishin』とゲームを手に微笑む松谷信司代表取締役社長

 

 

◇おまけ 「スマホゲーム」も含めた全7種類のゲームリスト◇

<カードゲーム&ボードゲーム>

『バイブルハンター』(全3部作)

『最後の晩餐~裏切り者は誰だ』(聖書版人狼)

『バイブルリーグ』

『ロストバイブル』

『ルターの宗教大改革』

<スマホ用アプリゲーム>

『モーセの海割り』

『教派擬人化学園 ピューリたん~チャペルにあつまれっ!』

 

2018年12月24日